『一流のリーダーほど、しゃべらない』 著者、桜井一紀さんインタビュー

Pocket

上司の「語りすぎ」「教えすぎ」部下のやる気を奪うだけ!

日本を代表するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、コーチ・エィの取締役でエグゼクティブコーチの桜井一紀さん。

本書は、現在部下がいる人はもちろん、これから部下をもつことになる人、もちたい人、経営者にも読んでもらいたいリーダーのためのコーチングをわかりやすくかつ理論的に説いた一冊です。

著者の桜井さんに、すばる舎取締役営業部長として営業部を率いる岡野がインタビューを行いました。「しゃべり」が苦手だと自覚する岡野、本書を読んでさっそく実践するも……そこで湧いてきた疑問・質問を桜井さんにぶつけます!

桜井一紀さん(画像左)プロフィール:エグゼクティブコーチ。1958年生まれ。日本大学大学院史学専攻修士課程修了。東京都公立中学校の社会科講師を経て、コミュニケーション研修の講師を10年間務める。1997年に株式会社コーチ・トゥエンティワン、2000年に特定非営利活動法人日本コーチ協会の設立に参画。
※クリックするとアマゾンへリンクします。

クエスチョンが難しい

岡野 (以下岡):本書を読んで、「しゃべらない」というか「聴く」ことの大事さがよくわかりました。ただ、なかなか「聴け」ない。理由を考えてみたら、相手が論理的に話をしてくれない、それを許容できない自分がいるのではなかいかと。それでもまずは、面談で我慢して「聴く」ことに徹してみようとトライしました。

フリートークは難しそうなので、テーマをふたつ決め、2週間程度前にメンバーに伝えて実施してみました。用意したテーマについては話してくれましたし、聴くこともできたかと思うのですが、そこから話しを広げることができない。

さらに質問をしていくことができなかったです。クエスチョンがとても難しいのですが。

題材をまず用意してから

桜井 (以下桜):まず、題材がなく話を聴くというのはとても難しいことです。今回のように、題材を用意したうえで部下が話をしてくれるのならば、可能性は十分ありますよ。

岡:そうなのですね。普段の会議やミーティングで「今月どうしますか?」などと投げかけても誰も発言してくれません。沈黙が怖くて、自分が一方的に話すばかりになってしまうのです……。

桜:今回の本にもそういう題材がたくさん掲載されています。そういう社長さんやリーダーの方はとても多いです。

岡:質問の仕方、テーマの決め方、クエスチョンの仕方がとても難しいと感じました。普段、私はしゃべるほうではありません。おしゃべりが上手ではないという自覚もありますし、どうしても話しがつながらない、キャッチボールにならない。そこをどうやったら訓練できるのか悩んでいます。

あらかじめ質問を用意しておく

桜:「質問」の問題ですね。質問がいくつかあればいいんです。相手が話して質問がなければ、そこで会話は終了します。でも、質問があれば問題はないわけですよね。次の質問を用意しておけばつながると思いますよ。

例えば1時間の面談ならば、あらかじめ10個くらい質問を用意しておけば結構つながるはずです。

岡:面談相手に対する質問を、事前に考えておいたほうがいいということですね?

桜:それでないと絶対にできません。その場でフリーでなんてできません。僕たちプロのコーチングでも事前にたくさんの質問を用意しておきます。1時間のコーティングセッションならば、準備時間も1時間、あるいはもっとかけることもあります。

人によって違いますが、最低でも10個。今日はこのことについて質問しようと決めて、考えていきます。1つの質問に対する返答を想定して、こう答えたらこの質問、ああ答えたらああ質問と、どんどん具体的にしていくようにしています。準備しなかったら全然できません。

岡:ざっくり2つだけ用意して、その場で答えられるものは答えましたが、なかなか話しが続かなかったんです。

桜:だからこそ準備が必要なんです。

質問の基本は5W1H、枝葉を描く

岡:具体的にどう聴いていけばよかったのでしょうか。

桜:オーソドックスには、相手の発言に対して、いつ、誰、どこ、何を聴いていきます。

例えば、相手が「こういうことをしたい」と言ったとしたら、「それはいつくらいまでにしたいの」とか。「目標を達成するために、どうやって勉強してくの」とか。それを題材にいくつか質問を作っていけばいいんです。

大きな質問に対して、どんどん枝分かれの質問を考えておくようにします。 いまそれは、AIでもやれるのではないかと言われています。将棋よりも単純かもしれないですから。

上司部下の5W1HくらいのところはAIでも十分ではないかと。最終的に人が何をやれるのか、ということになってきますね。

コーチングと日常業務のバランスをどう取るか

岡:さきほどの話しに戻りますが、こちらが「いつまでにそうしたいのか」と聞いてみて、相手がそこまで考えていなかったとき、どこまで我慢すればいいでしょうか?

桜:まず、根本的なところで言うと、1+1は2になるようなマネジメントってあるようでないんですよ。なので、それは自分で考えなくてはなりません。それがマネージャーの仕事です。たとえば、この人に対してはどこまで我慢するのか、あの人はどうかと、違うわけですから。

仕事でも違うし、人によっても違うし、同じ人だとしても、昨日のその人と今日のその人は違うわけですから。 だから、どこまで我慢すればいいですか? という質問に対して「ここまで我慢すればいいです」という答えはありません。

岡:自覚もありますが、すこし気が短いんです。そして結論を先に聴きたいという傾向があるかと思います。雑談をしながら探っていく、ということが苦手です。

桜:それもわかります。そういうときは、この部下をどうしたいのか、という上司の意思に基づくといい。そこがすごく大事です。そうしたら、もうちょっと我慢して聴こうと思うかもしれないし、この部分に関してはダメだな、ということで「こういう風にしておいて」と指示を出したほうが早いかもしれない。

相手の能力や状況、あるいは仕事の内容や外部条件などに合わせて、コーチングの要素もティーチングの要素も使う、ということですね。日々のマネジメントを、コーチングだけで機能させるのは不可能ですから。

岡:臨機応変に、ダメだと思ったら指示をしていいってことですね。

桜:そう。そうしないと仕事が先に進まないでしょ。

でも問題は、今の仕事はそれでクリアするかもしれないけれど、同じことがずっと続いてしまうということです。その人はやれるようにならないから。そうではなくて、ちょっと危なっかしいけれど、やらせてみて、ダメだったら自分がフォローが回るようにしよう、というふうに考えていくことが大事ですね。

仕事の期日が迫っているときにコーチングをするのは現実的ではないですよね。それなら期日までに仕事をしたほうがいい。けれど、その仕事が一段落したときにでも、今回はバタバタしてしまったけれど、次回バタバタしないためにはどうするかとか、少し考えさせるようにすればいいですね。

日常的なコーチングと機会を設けたコーチング

岡:やろうと思ってコーチングをするのではなく、随時コーチングをすると意識していたほうがいいのですか?

桜:両方ですね。いつでもできると思うと、それはできない。 以前、お医者さんと病院スタッフのコーチングをしたことがありました。お医者さんは事務の人たちはいつも側にいるから、いつでもコーチングができると思っていたのです。

ところが、その人たちに対して一番できませんでした。だから、わざわざコーチングの時間を取ってもらいました。すると、それがベースになって、日常の会話の中で「いま、どう思っているの」というような会話ができるようになるわけです。

ベースがあるから会話が成り立ちます。1週間に10分でもコーチングをしていると、日常的にできるのですが、その10分がないとコーチングがすごくやりづらくなるんです。今さら言えないみたいな雰囲気になってしまいます。普段、日常的な会話はどのくらいしていますか?

岡:リーダー職の人には結構言っているかもしれません。こういうふうにしてほしいとか。でも、彼らは空気をすごく読んでくるんです。今言っちゃいけないかなとか。

桜:世の中のマネージャーの人たちは、部下の人たちが空気を読んでいることに気づいていると思います。そこでどうするのか選択肢が持てるかどうかで変わってきます。

本にも書いてありますが、直接聴いてみるというのも一つの選択肢ですよね。「どう思っているの?」と。最初からそれを聴くのが難しければ、最近どうなの? というところから入っていって、コミュニケーションについてどう思っている? と聴けるようになるかもしれません。

自分はこういうミーティングしたいと思っているけど、どう思っている? とか。

みんなの前では聴けないかもしれませんが、1対1なら、ちょっと教えてよって感じで聴くこともできるかと思いますよ。全員に個別に聴いていってもいいと思いますよ。

岡:そういう意味で言うと、人によりますが飲みに行ったりして話す機会は少なくないほうかと思います。

桜:会話にはフォーマルな会話とインフォーマルな会話があります。会議や面談がフォーマルな会話。そうではなくて、廊下で会ったときに「ちょっと最近どうなの」とか。

これがインフォーマルな会話です。いい例が喫煙者同士。彼らは、ものすごく情報共有をしていたりしますよね。何でそことそこがつながってるの、ということがありませんか。 10分でもいいからコーチングをしていると、インフォーマルな会話が生きたものになります。

やるやらないで将来の「伸びる角度」が違う

岡:今回、こうして桜井さんに直接お話を聞く機会があったので、実際にコーチングというか個別面談をしてみたことはお話した通りです。でも、急にやると言われたものだから、多分メンバーは驚いたんじゃないかと思うんです……。

桜:マネジメントの変化というのは、するほうからすればすごく勇気のいることです。でも大きな目で見ると、その変化はすごく小さい。さらに、それを将来的な目で見ると、その時についた「角度」による変化はとても大きなものにります。

コーチングってやるかやらないか、だけのことなんです。でも、やることによって、その時についた角度による開きはものすごく大きい。 コーチングを始める場合、ある程度の強制力は必要かもしれません。あるいは、よほどにっちもさっちも行かない状態になっているとか。

そうでないと、日常は慣性の法則で続いていくわけですから。その慣性を変えるきっかけは強力である必要はあると思います。 1度やってみて、本人的にうまくいかなかったと思ったとしますよね。けれど客観的に見てうまくいる場合も多いです。継続していくのは大変なので、周りのサポートは必要になってくるかもしれません。

ですが、すごく成果が違ってくるので、これを機会に1回と言わず、ぜひ続けてみてください。

岡:桜井さん、とても勉強になりました。ありがとうございました! がんばって続けてみます。 今回の桜井さんの本は経営者を含むリーダーの方たちにとてもマッチする本だと思います。ターゲット層に強い書店での展開はもちろんですが、駅ナカや空港内の書店でも期待できそうですので、販売ももちろんがんばっていきます!


書籍:「一流のリーダーほど、しゃべらない」(桜井一紀著)


※クリックするとアマゾンへリンクします。
【内容】
日本を代表するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、コーチ・エィ。コーチングを学び始める人が、最初の壁にぶつかるのが、 「口をはさまず、最後まで人の話を聞く」こと。コーチ・トレーニング・プログラムでは、とにかく聞き役に徹する訓練をする。「聞く」ことの重要性はみなわかっているものの、それ以前に「話さない」ことの大切さを自覚している上司は少ない。
上司はつい「教える」姿勢から話しすぎてしまうもの。けれども実は、上司が話せば話すほど、教えれば教えるほど、部下は学べなくなっていた…!? 部下自身に話をさせ、自分の言葉で語らせることで、加速度的に成長する。それにはまず、上司が話す量を意識的に減らすところからスタート。コーチングの第一人者が「本当に生産性の高い組織」をつくる方法を伝授します!
【目次】
第1章 リーダーの9割は話しすぎている!?
第2章 まずは意識的に話す量を半分にしてみる
第3章  「教える」ではなく「考えさせる」
第4章 「話す時間」が増えると部下はどんどんやる気になる!
第5章 最終目標は「自分がいなくても回る」組織づくり