【第2回】大嶋信頼氏 連載コラム/嫉妬が起きる仕組み
ある女性は「習い事の教室で、先生や参加者から嫌がらせをされる」ということで悩んでいました。
教室の常連の方が女性の作品を見て「そのやり方は間違っている」とか「ちゃんと基本ができていない」と、女性のやる気を削ぐようなことを言います。教室の先生も、女性の作品を見て、「ここは変じゃない?」と言ってきます。
「え~? 先生のアドバイス通りやったら変な作品になってしまうのに!」と思いながらも、「先生の言ったとおりやらなかったら嫌われちゃうかな?」と不安になってしまい、自由に作品が作れなくなってしまったんです。
女性の相談を受けた私は「もしかしたら、この女性の作品が優秀だから、周りの人に嫉妬されているのかもしれない」と思い、「あなたの作品のことを、誰かから“すごい!”と言われたことはありますか?」と確認してみました。
すると女性は、「え?なんでわかるんですか?先生のお師匠さんから“あなたの作品はすごいです!”と褒められたことがありました」と言います。
つまり、常連の方も、先生も女性の才能に対して「嫉妬の発作」(第1回参照)を起こしてしまい、おかしなことを言っていたんです。
女性はふだんから謙遜して「私は初心者ですから」とか「あまり才能がありませんから」と教室の参加者や先生に対して「下手」に出ていました。
嫉妬の発作は「自分よりも立場が低い人が、自分よりも優れたものを持っている」という条件で起きます。
だから、下手に出れば出るほど、常連の方や先生の嫉妬の発作を誘発してしまい、その人たちのひどい発言が止まらなくなっていたんです。
この話をすると、女性は周りの人に対して下手に出るのをやめるようになり、「周囲の人から変なことを言われなくなって、教室で過ごしやすくなりました!」とにこやかに報告してくれました。
また、ある女性は夫に対して、イライラをぶつけてしまうので自己嫌悪になる、と相談に来られました。
女性が家事を頼んだのに、夫がすぐにやってくれずに、女性は「なんでちゃんとやってくれないの!」と怒って、責めてしまうそうです。
端から見ていると「やらない夫が悪いのでは?」という気がするのですが、女性は「こんなに夫にイライラをぶつけてしまうのは、私が夫に嫉妬しているからだと思うんです」と言います。
夫はふだんから女性のために家事も手伝ってくれていつも優しく接してくれています。
友だちからも「あんなにいい旦那さんはいない!」と言われ、女性は「私が自分よりも優れている夫に嫉妬して攻撃しちゃっていて、それが止められないんです……」と言います。
そこで、その女性の旦那さんにもカウンセリングに来ていただくことにしました。
旦那さんと話したのですが、いたって普通の方で、「たしかに旦那さんはいい人だけど、奥さんが嫉妬するほどではないでしょ!」という気がします。むしろ、奥さんのほうが対人コミュニケーション能力や状況を的確に判断する能力が上なんです。
そこで「もしかすると旦那さんが奥さんに嫉妬をして攻撃をしているのかもしれない!」という大胆な仮説を立てました。
女性から旦那さんにイライラするタイミングを聞いてみると、お願いしたことを忘れたり、やってもらえないとき、と言います。
「ふだんは優しくていい人なのになぜ?」となって怒りがわいてくるそうです。
奥さんが体調がすぐれなかったり、人間関係で嫌な思いをしていたりするときに限って、旦那さんが「忘れた」とか「やってない」と言うので、つい「キ~!」となって旦那さんを攻撃してしまって、みじめな気持ちになり、それで気力がなくなって動けなくなり、起きる気力もなくなって、ずっとふとんで寝転がったままになってしまう、とのことでした。
この話を聞くと、無抵抗な夫に奥さんがキレている、というふうにも思えます。
しかし、実は女性の夫は嫉妬している人特有の行動をしていたのです。
嫉妬したときの行動はあからさまに敵意をむき出しにしたり、悪口や嫌味を言ってしまうだけではありません。
嫉妬の発作で「言われたことをやらない」とか「忘れちゃう」という“受動攻撃行動”もあるんです(受動攻撃は直接的には怒りを表現せず、緘黙や義務を怠るなどの行動をしてしまうこと)。
ふだんは奥さんのほうが強くて、賢いのですが、奥さんの調子が悪くなると、奥さんは旦那さんよりも「下の立場」になるから、旦那さんの脳内で「嫉妬の発作が!」となってしまいます。
そして、旦那さんの受動攻撃(言われたことをやらない)で奥さんは「ムカつく!」となりますが、その怒りも旦那さんは「受動攻撃」(スルーする)で受け流してしまうので、奥さんの脳に帯電して「怒りのストレスで余計に調子が悪くなった!」となって体がだるくて思うように動かせなくなってしまったんです。
もともと素晴らしい才能を持っている女性なのに、結婚してから「思うように動けなくなった!」となっていたのは、一見、良い人である旦那さんの嫉妬の発作で攻撃されていたから。
女性はそのことに気がついたら「体がこれまでとは全然違っていて、楽になったかも!」となります。
「もしかしたら、長年この人の嫉妬のせいで、自分がやりたいことができなくなっていたのかも!?」ということに気がついたら、自由に動けるようになっていったんです。
~余談エピソード~
嫉妬で思うように動けなくなったケースを見てみると、嫉妬の発作は嫉妬している本人が悪意を持ってやっているわけではないことがわかります。
「自分よりも高い能力を持っている」相手が、謙虚だったり弱っていたりするときに嫉妬が発作的に起きてしまい、「自分と同じレベルにな~れ!」と足を引っ張っているような感じなんです。
自分が思うように動けなかったり、周りの人たちに対する怒りが止まらなかったりしたら「周りの人が嫉妬の発作を起こして足を引っ張られているかも!」ということが考えられます。多くの嫉妬されちゃう人たちは「自分が相手に嫉妬しているのかも」「自分がおかしいのかも?」と悩みます。しかし、自分と同じようなレベルの人たちの間にいるときは、足を引っ張られたり、怒りを覚えるようなことがないので、「こんなに楽なんだ!」とびっくりします。
そうなんです、「嫉妬の発作」はパートナーでもグループでも「お互いの足並みを揃えるもの」として存在しているんです。
バックナンバー
【第1回】自分より「良い境遇の人」「優れている人」を見ると嫉妬してしまう
【第4回】「文章が下手…」「容姿に自信がない…」自分を苦しめる劣等感
【第6回】嫉妬がなくなると人間関係の悩みが消え、自分に軸ができる、人に振り回されなくなる
【著者・プロフィール】
大嶋信頼(おおしま・のぶより)
米国・私立アズベリー大学心理学部心理学科卒業。アルコール依存症専門病院、周愛利田クリニックに勤務する傍ら東京都精神医学総合研究所の研修生として、また嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室非常勤職員として依存症に関する対応を学ぶ。嗜癖問題臨床研究所原宿相談室室長を経て、株式会社アイエフエフ代表取締役として勤務。現在株式会社インサイト・カウンセリング代表取締役。ブリーフ・セラピーのT.F.T.(Thought Field Therapy)を学び認定トレーナー資格取得。
ブリーフ・セラピーのFAP療法(Free from Anxiety Program)を開発し、トラウマのみならず多くの症例を治療している。 著書に、『言葉でホルモンバランス整えて「なりたい自分」になる!』『それ、あなたのトラウマちゃんのせいかも?』『無意識さんの力で無敵に生きる』 『支配されちゃう人たち』 『ミラーニューロンがあなたを救う!』(以上、青山ライフ出版)、『サクセス・セラピー』(小学館)、共著『児童虐待〔臨床編〕』(金剛出版刊)、『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』『「すぐ不安になってしまう」が一瞬で消える方法』(以上、すばる舎刊)がある。
大嶋信頼先生の書籍とDVDはこちら
★『「いつも誰かに振り回される」が一瞬で変わる方法』10万部突破ありがとう!
本を読んだ後、活用できる「ザ・振り回されないカード」をプレゼント!「あの人」「あの出来事」でモヤモヤしたとき、ぜひご活用ください! 詳しくはこちらから(外部サイトへ)