DAY1.入社の頃ほどやる気が出ないんだけど…
DAY1.入社の頃ほどやる気が出ないんだけど…
オレは、IT系の会社に勤める、入社半年目、30歳のサラリーマン。
新卒で入った前の会社でもそれなりに仕事をこなしてきたつもりだった。
だから、30歳になる年を機に、より専門分野を極めようと、新しい会社に転職したこの4月。
でも、そうそううまくはいかないようだ。
人生初めての転職だった。
同じ業界とはいえ、新しい会社、新しい同僚、新しい上司……。
最初は新鮮な気持ちで、一生懸命仕事を覚えて、毎日フレッシュな気持ちで仕事に臨んでいた。
それなのに……。
もうすぐ下半期が始まる9月中旬の今、憂うつな気分で、1人、自宅で缶ビールを飲んでいる。
なぜ憂うつなのか?
入社した時ほどやる気が出ない自分がいるからだ。

そんなことをボヤっと思いながら、ふと本棚に目を向けると、あるビジネス書が目に留まった。
タイトルは、『仕事ができる人の逆転ワザ42』。
「あれ? こんな本、持ってたっけ?」
なぜだか無性に読みたくなってきた。
その本を開くと——、
小人が現れた。

そして、こう言った。
「ワシは、ビジネス書の妖精、センニンじゃ。
ピンチ、失敗、トラブル、ミス……、あらゆるビジネスパーソンの悩みを解決してきたエキスパートじゃ。
どんなにツラくとも、向上心があり、自分を信じる者にのみ、秘伝の『逆転ワザ』を伝えておる」
「……センニン……?」
「そうじゃ、今からそう呼んでもらってかまわない。
ときにおぬし、どうやら悩み事を抱えているようじゃが、ワシにひとつ聞かせてみよ」
「え?……」
初対面の人にふつう悩みなんて打ち明けるだろうか。
いや、そもそも、こんな非現実的な生き物の言うことを信じるのか?
これは夢なのか……。
オレは考えがまとまらないまま、夢なら覚めるだろうと、思いきって話し始めた。
「今の会社に勤め始めて、もうすぐ半年が経つんですが、なぜだかやる気が出ないんです。
もちろん転職したばかりの時は、新しい環境になじむのに必死で、仕事も一生懸命覚えようとしていたけど……半年経って、仕事に慣れてきたせいか、前ほどやる気が出ないんです」

「ふむ……。おぬし、『ライフラインチャート*』を知っておるか?」
「いえ」
「よし、紙とペンを用意しなさい。そこに、社会人デビューしてから今までの『モチベーションの上がり・下がり』をグラフにするのじゃ」
元来、素直なオレは言われたとおりに、グラフを書いてみた。
(注;「ライフラインチャート」の書き方……
A4のコピー用紙などを使って、自分の好不調の波を書いてみましょう。
用紙を横にして上下の真ん中に横線を引き、そこをプラスマイナスゼロのラインとします。
社会人デビューから今までの出来事を思い出しながら、モチベーションの上がり下がりを表してください。
『仕事ができる人の逆転ワザ42』のCASE03より)
30分後——
でき上がったグラフを見てみると、今と同じようにモチベーションが下がっている時が何度かある。

「どうじゃ? 下がっとる時期があるようじゃな。
だが大事なのはそこではない。
その下がった点から、再び上昇する時に起こったイベント、状況、環境などをよく思い出し、それと似たことを、おぬしが起こすのじゃ」

下がったのは、3年前、今のようにナゼだかやる気がなかった時だ。
でもその時は、新しいお客さんを担当することになって、システム保守やそのコンサルティングのエンジニアだったオレは、「先輩の引き継ぎではなく、イチから顧客と信頼関係を作っていこう」と、やる気に充ち満ちたことを覚えている。
「うむ、何かに気づいたようじゃな。そう、その時モチベーションが上がる『キッカケ』を、おぬしが再度作るのじゃ」
「オレが、キッカケを……?」
「そうじゃ、明日、さっそくやってみなさい」
センニンのその言葉を最後に、オレの記憶は途切れた。
——
チュンチュン、チュンチュン……。
カーテンから差し込む光で目を覚ましたオレは、ハッとして本棚を見た。
昨日見た本は、静かにたたずんでいる。
机の上に目をやると、グラフが書き込まれたA4用紙とボールペンがそこにあった。
昨日は過去のことを思い出すので精一杯だったが、今は、モチベーションが上がったあの時の感情が、まざまざと蘇り、「もう一度……」という想いが湧き上がってきた。
「よし、やってみよう」
この日オレは朝イチで直属の上司と話し合い、なんと新しいお客さんの担当をすることになった。
上司も、「そろそろ新しいところを任せようと思っていたが、入社半年のお前にするべきかどうか迷っていたんだ。そこに、自分から言ってきてくれたおかげで決心がついた」と言っていた。
やる気を取り戻し、どうやら上司にも認めてもらえたようだ。
昨日までの憂鬱な自分がウソのように、今は、また仕事に燃え始めた。

[DAY1.完]
公開日:2016年9月30日
監修:濱田秀彦
文:すばる舎リンケージ「逆転」委員会