DAY3.ひとクセある顧客の担当になった

DAY3.ひとクセある顧客の担当になった


無事、新システムの検証の準備が整ったある日、上司に声をかけられた。

缶コーヒーを渡され、上司と向かい合って座った席は、簡単なブースで仕切られた打ち合わせペースだ。

もうすぐお前も入社半年だな……。
どうだ? けっこう慣れてきたんじゃないか?」

「はい、なんとか」

 

「そうか、それはよかった。
実はな……、すまないが、また新しいお客さんを担当してもらいたいと思っていてな」

「は、はい……」

オレとしてはうれしい話なのだが、なんだか上司の様子が少しに気にかかる。
歯切れが悪いような……。

「ありがとう。引き受けてくれるんだな。助かるよ。
そのお客さんを担当していた、お前の3つ上で、4年目のヤツが退職することになってな。
他も引き継ぎをしなきゃいけないんだが、まずはそのお客さんを、と思ってな」

え、先輩辞めちゃうんですか? いろいろ教えてもらえて勉強になってたのに」

 

オレは心底ショックを受けた。

「ははは。ま、アイツはアイツで悩んだ結果の転職だ。応援してやってくれ」

「……もちろんです!」

そのすぐ後、例の先輩がさっそく挨拶回りに行くというので、
引き継ぎもかねてオレもついていくことになった。
だが、そこで、上司の歯切れの悪さの理由を知ることとなる――。


オレと先輩を待っていたのはやたらと早口でまくしたてるお客さんだった。
お客さんは先輩の話を最後まで聞かないうちに話し始めた。

「え、キミ、辞めちゃうの!? ずいぶん突然だね。
じゃあ、この間のトラブルの件、どうするの?
まだ原因がわかってないよね。
それに、上から早く報告よこせって言われてるんだよね」

怒っているわけではないが、早口でまくしたてられた上、
せかされるとあまりいい気分はしない。

 

今日はあと何件か挨拶回りのアポがあるし、どうにかこの場はサクッと納得してもらったほうが……
とオレが考えていると、先輩が、

「わかりました。いまから応急処置だけはします」と言って、
先方のマシン室に移動し作業をはじめた。

オレはメモをとりながらも、時間は大丈夫だろうかと気が気ではない。

そして1時間後、応急処置程度ではあるが、対応は終わり、お客さんも満足そうだった。

「先輩……」
「うん、次、急ごう」

残暑が厳しい9月中旬、オレたちは全速力でオフィス街を駆け抜けた。

「はぁぁぁぁ~」

汗だくで走り回り、アポイント先には遅刻して平謝り。
挙句の果てには、あの後、例の会社から、
「今日の対処方法を社内で共有しておきたい」
と電話がかかってきたのだ。

「後日、報告書で」
とオレが言ったら、
「そんなんじゃ困る! いま知りたいんだ!」
とどやされ、先輩にバトンタッチ。

先輩は2~3分話したかと思うと、
「後日、報告書を送りますね」
といって、先輩は静かに電話を切っていた。

オレだっておんなじことを言ったじゃないか……!

その考えが顔に書いてあったのか、先輩は少し笑いながら、
「せっかちなお客さんだから」
と言ってさっそうと仕事に戻った。

──
その日の夜、

「あ~……。あのお客さん、オレ、苦手かも……」

 

と言いながら、オレは自然と『仕事ができる人の逆転ワザ42』を開いていた。

「悩んでいるようじゃな」

 

「う~ん……。
報告書はあとで送りますって言ってるのに、それじゃ困る、って……。
ありえないくらい〝せっかち〟なお客さんがいたんです」

「ふむ。おぬし、
①せっかち&気分屋
②威圧感&厳格
③レスポンス遅い&細かい
の人間がおったら、どれが一番苦手とするか?」

「比較すると、『①せっかち&気分屋』ですかね。リアルタイムですし」

「実は、いまの3つは、多くのビジネスパーソンが、
『苦手』と感じるタイプを大きく3つに分けたのじゃ」

 

「ふ~ん……。たしかに、ちょっとありえない、
って思うお客さんを思い浮かべると、そのどれかに当てはまりますね」

「さよう。それがわかれば、あとは簡単じゃ。
それぞれの3タイプごとに対処法が決まっておるからじゃ」

 

(注;苦手タイプごとの対処法……
①「せっかちな気分屋タイプ」への対処:「アバウトでよいからすぐに」です。
持ち帰ることなく、すべてその場で対処するようにすると関係は大きく改善します。
そして、コミュニケーションは会って話す、電話するなど口頭で行うほうが効果的です。
詳しい内容はいりません。ひとことで話すのがコツです。

②「威圧感のある厳格タイプ」への対処:「事実と選択肢を示す」です。
厳格タイプは自分が決めないと気が済みません。
そのために必要な事実情報、選択肢を求めます。
それ以外の話を聞くことは、厳格タイプにとってムダな時間。
このタイプの顧客と話す場合は、単刀直入がポイントです。

③「レスポンスの遅い細かいタイプ」への対処:「考える時間を差し上げる」です。
予告したり、宿題にしたり、考えておいてもらう方法をとります。
また、ペーパーやメールなど文字にしてやりとりしたほうが話が前に進みます。
この相手に対しては、話すペースをゆっくりにし、データを示して説明します。

仕事ができる人の逆転ワザ42』のCASE12より)

「なるほど……!
今日の引き継ぎでいったお客さんは、①の『せっかち&気分屋』タイプだ。
だから、先輩は、その場その場で対応してたのか

「そうじゃ。
おぬしの先輩がこの『苦手タイプ診断』を知っていたかはわからぬが、
おそらくは、難しい、ひとクセもふたクセもある、
やっかいな顧客をほかにもたくさん抱える中で、対処方法を身につけていったのじゃろう」

「なるほど……」

──

それからオレは、苦手だと感じるお客さんがいたら、
「苦手タイプ診断」をし、メモした「タイプ別対処法」をこっそり見ながら仕事をすることにした。
先輩から引き継いだ例のお客さんともなかなかスムーズにいっている。

「アイツ、うまくやってるようだな。任せて正解だったな」
と、上司が言っていたと、あとで他のヤツから聞いた。



(公開日:2016年10月4日)

[DAY3.完]

監修:濱田秀彦
文:すばる舎リンケージ「逆転」委員会